「ひとつ・・・ふたつ・・・」
数え始めた九郎の声を背に、まさしく兎のごとく走り出した。
「どこに隠れようかなぁ〜?」
呟きながら、渡殿を駆け抜ける。
もしかしたら、あの童女よりも自分の方が楽しんでいるのかもしれない。
日の当たらぬ簀は剥き出しの足を容赦なく冷やす。一度は階を下りて庭を見回したが、思い直した。
広い邸内とはいえ隠れる場所は限られている。しかし簡単に見つかるのも面白くない。
隙間から微かに光が漏れるのみの衣箱に収まると、すぐさま景時の気分は沈んでいった。楽しんでいた、その事実か、それともただ辺りが暗いからだろうか。
外の音も、気配も、闇の中で薄れていくような気がする。まるで眠りに落ちていくかのような感覚に、景時は包まれていた。
どれほどの時が過ぎたのか。
簀を踏む微かな軋みが近付いて、景時は覚醒する。少しずつ鼓動が高鳴っていき、自分の呼吸を必要以上に騒がしいと思う。
静かに戸の開く音。足音が変わる。・・・すぐ近くに人がいる。
景時は怯えるように頭を抱えた。
がたりと音がして、周囲が明るくなった。
見つけた!という九郎の声を待って目を瞑る。
「何やってんだ?」
降って来たのは、笑いをこらえた将臣の声。
「ま、将臣くん!?」
覗き込む顔を見上げれば、ついに将臣は吹き出した。
「隠れ鬼してたんだよ〜〜〜。もう、どうして見つかっちゃったんだろう?」
「どうしてって、お前っ・・・羽織の裾が出てたぜ?」
「あー・・・」
もぐりこんだ時、きちんと手繰り寄せなかったせいだった。割れた長い裾の一つが、見事に向こう側へ流れている。
「牛車じゃないんだからな!」
笑うと力が抜けると、将臣は悶えている。
「ホント、アンタって・・・馬鹿なフリしてるのか、天然なのか、分かんねぇ・・・」
重い蓋を持ち上げた腕が震え、その筋肉のうねりを目にして、景時はどきりとした。その僅かな表情の変化すら。見逃してはくれない。
「ん、どした?」
「なんでもないよ」
蓋を傍らに立てかけながら、将臣が否定の言葉は聞き流す。
「また、暗いことでも考えてたんじゃねぇの?躁鬱病っていうのか、お前は浮いたり沈んだり忙しいしなぁ。すぐなんでもないフリするし」
「そういうんじゃないってば」
さらに答えた景時を、優しい瞳で見つめて手を差し出しながら、将臣は言った。
「いい加減、出て来いよ」
途端に景時は、ずっと箱に隠れたまま会話をしていたことにようやく気付いて、羞恥に頬を赤くする。さらに、さっき感じた動悸が甦って、首筋までも染めていく。
「大丈夫か?」
きっと将臣は分かっていて、問うてくるのだ。でなければ、こんな風に近付いて、囁いたりしない。
「一人で出られるよ、大丈夫」
とあまり大丈夫そうではない景時が立ち上がり、よろめきながらやっと箱を出る。並び立てばほんの僅か景時の背丈丈が高い。それでも背筋を伸ばしている将臣と、肩を丸め身を小さくしている景時では、むしろ将臣の方が大柄に見える。
「久しぶりだよな、二人きりって」
行き場がなくなった手を伸ばし乱れた髪を梳いてやれば、またその瞳が揺れた。
「そ、うだね・・・」
思わず掠れた声にすら、景時はさらに動揺する。
「く、九郎に見つかっちゃうよ・・・。隠れないと・・・」
もう、あまり効果のない躊躇いに、将臣は黙って手を掴んで、衣箱の後ろ側へ導いた。
「お前は俺が見つけたんだから、取って食われても文句は言えないぜ」
「もう・・・将臣くんってば」
呆れたようにその名を呼び、景時はようやく微笑んだ。
その後・・・。
景時の声を聴いたような気がして、九郎はその襖障子の前で足を止めた。
「景時、いるのか?」
戸に手をかけた途端。内から艶めいた声が漏れて、ぎくりと固まる。低い囁きと短い吐息、堪えた喘ぎ。その中の熱さえ伝わるようで、思わず赤面する。
中で九郎を寄せないための一瞬の逡巡があったことなど、彼は知らない。だが、さすがの九郎にも、ここは気を利かせるだけの情けがあった。自分自身、似たような経験がないとは言えないからだ。
「あー、いない、みたいだな・・・。仕方ない、あと一刻して見つからなかったら、また探しに来るか・・・」
法皇の前で大芝居をうったとは思えない、わざとらしい声色で九郎は言い、立ち去っていった。
その後のその後。
「お前ら・・・いい加減にしろ!!」
かくれんぼをしていたことなどすっかり忘れているだろう二人がいつまでも戻らず、さすがに堪忍袋の緒が切れた九郎の怒声が、対の屋中に響きわたったのだった。
えーっと・・・そもそも、平泉に将臣がいるかどうかすら分からないので、やるなら今しかないと(笑)
って、もう手遅れかもしれないですけど。発売されたら一段落着くまで、こんなとこ見に来る方もいらっしゃらないでしょうしねぇ(苦笑)
(追記:9月22日)と思ったら、勝浦でしたね★ばんざーいvv
でも勝浦だと久しぶりって感じじゃないかも。平泉のつもりで書いていたので、ちょっと緊張感あるというか、ぬるま湯のような日々というか・・・暗い空気。
将臣って、景時のことを「俺のモノ♪」って思う時は『お前』、年上なのに可愛いヤツって時は『アンタ』って呼びそうな気がします。ゲーム中どうだったかな・・・意外と改めて考えると記憶にないです・・・(汗)
タイトルは、姫小箱のパクリで(笑)
とにかく、公約は果たしましたよ、南瓜殿。
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