誰でも苦手なものがある。

躊躇いながら伸ばされた赤い舌に、将臣がぴくりと身体を震わせた。
「んっ・・・」
微かにくぐもった声が漏れたように聞こえたが、滝壷に注ぐ水音の激しさであまり良くは聞こえなかった。

川べりには白い洗濯物と投げ出された鎧と二人分の陣羽織。

「将臣君・・・?」
遠慮がちに顔を見上げた景時の、柔らかい髪をくしゃりと撫でる
息が獰猛に弾んでいる将臣に景時は嬉しそうに微笑んだ。

 熊野の思わぬ足止めは、彼らにとって思わぬ息抜きともなった。
山もあり、海もあり、人々の笑顔も美しい熊野は何よりも戦の気配が少なく、彼らを一時の幸福に浸らせた。
初夏の濃い緑は眩しいほど鮮やかで、互いの肌からは汗の薫りが滲み出ている。

 幸福そうに胸の突起を薄い唇で食んでいた景時を、
「もういいだろ」
と、掠れた声で呟いて、少し強めに力をいれて引き剥がした。
将臣の下腹部は集まり始めた熱を訴えており、刀を下げたままの腰が酷く重く感じられた。

「・・・刀、邪魔だな」
景時は何かいいたげな顔をしていたが、何も言わず代わりに将臣の厚い背中に手を回して、骨を辿った。

「・・・ほんとに弱いんだよ、触られるの。何かざわざわする」
深い吐息を吐いてから、耳朶を赤く染めて景時の胸元に顔を埋める将臣。
仕返しとばかりに景時の胸の小さな突起を慣れた仕草で指を絡ませ、舐め上げる。

「将臣君でも弱点ってあるんだね。何だか嬉しいなあ」
擽ったそうに笑った景時に、将臣は唇の先を持ち上げて笑った。

 上半身裸の二人の身体は、淡く陽に包まれてさえも冷たい。火照った体温が愛しく、自然と互いの袴を解いた。
するりと落ちる袴の紐を掬い上げて絡め取ると、川の流れに囚われないよう、刀を重石にしてすぐ傍の岩の上に置いた。




あとがき

誰かに見つかったら行水中だって言い訳します。
苺は苺でもワイルドベリーで、小さくて甘くはありません。


2005.5.23 逢坂暁





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