「よし、じゃあ今日はこの辺で終わりにするぞー」
言った途端に、チャイムが鳴る。
 学校だから、当然ながら一日に何度も聞く響きなのだが、そのうちで生徒たちが2番目に喜ぶその時。

 ぞろぞろと出て行く生徒たちを尻目に、早々に準備室に向かう。
「やっと、昼飯かぁ。しかし面倒くせぇなぁ…。短い昼休みだし、ここでダラダラしていたいもんだ…」

 呟いたその時、開け放したままドアを律儀にノックする音。振り返らずとも、誰なのか分かってしまう自分が憎らしい。
「何しに来たんだ〜、王崎?まだ部活の時間には早いぞ」
「お疲れの先生に、優雅なランチタイムを、と思いまして。癒しのBGMなんていかがですか?」
何しに来たわけでもないと知りつつ金澤が訪ねれば、対する王崎も愛器を掲げてジョークを返す。
「お前さんなぁ、昼くらい大学で食えよ。高校生に戻りたいのか?」
「そうだな、戻れるものなら。そうしたら、毎日昼に来ても、こんな嫌味を言われなくて済むんでしょう?」
「生徒が毎日入り浸ってたらマズイだろー。それとも、『あの頃』に本当に戻りたいのかな、王崎くんは」
「いいえ、こうして、あなたにランチを運べる生活の方がいいですよ、もちろん」
目の前にガサリと置かれた紙袋。
「これ、駅前のカフェの…」
「ちゃんと、日替わりのメニューまで確認しましたよ。はい、先生の好きなチーズサンド」
「わ、わざわざスマン」
予想外、というより予想以上の事態に、少しだけうろたえて、金澤は立ち上がる。
「仕方ないなぁ。サービスでコーヒーは俺が淹れてやるか」

 完全に住みついている部屋だった。ペアのカップはどこかから景品で貰ったもの。そうじゃなければとても置いてはおけない。それまで使っていたものは割れてしまったと嘘をついて、まで。
 王崎は勝手に定位置に座り、粉末コーヒーをすくう、スプーンを持つ指先の仕草まで見逃さない。
「先生のことだから、買いに出るのが面倒だとか言って、食べないで昼寝してたりしそうだと思って」
「ははは、まったくその通り。なんでわかっちまうんだ?」
「何ででしょうね。偶然だから、次を期待しないで下さい。今日はこれから、だからついでに寄っただけで」
「なんだ、涼しくなるまで毎日デリバリー頼もうかと思ったのに」
「さっき、来るなと言っていたくせに」
微笑みつつ、数々の包みを取り出されて、金澤は困惑するしかない。
「お前さんさ、それじゃどこのOLさんですか?って感じだぞ?ピクニックにでも行きたい感じだ」
「行きますか?森の広場」
無邪気な教え子。普段は老け過ぎているくらい落ち着いた顔をしているのに、時々今の教え子とも変わらないくらい、子供じみた反応をすることがあって、そしてそれに油断すれば、唐突に金澤でも狼狽するほどの大人の姿を見せる。
「いやだ、そんな子連れの新婚夫婦みたいな真似」

 いくら盛りだくさんでもOLのランチボックスは、男二人であっという間に平らげてしまう。
「そうか、先生は手作り弁当の方がよかったんですね。先生の料理の腕にはかなわないけれど、今度チャレンジしてみようかな」
2杯目のコーヒーは王崎が淹れて、テーブルにことりと2つ並んだ。
「でも、先生が拗ねているのはかわいいですよ」
「ぶほっ・・・っ・・・」
カップを引き寄せて口につけたところで、その攻撃を受けた金澤は、盛大に噎せて王崎を睨みつける。
「・・・お前、そういうことを突然言うな」
「すみません」
笑顔を崩さない彼が、時々憎らしい。
「今は、真昼の学校だぞ〜?」
「昼じゃなかったらいいってことなんですよね、先生」
「そうじゃなくてな〜・・・」
「今度は、ディナーをお届けします。ご自宅に」
では、午後からレッスンなので、と言い逃げして王崎は出て行ってしまった。

 気づけば、金澤のカップ以外、綺麗に片付けられていて、その手際のよさには驚かされる。

「もう少しなぁ・・・恋心とかも器用に扱ってくれんもんだろうか」
呟く本心は、
「いや、そこまで器用になられたら、俺が困る」



洗ったカップは、まだ濡れている片割れの隣に。






うわぁぁぁ・・・ご、ごめんなさい。
色々いっぱいいっぱいで死にそうです。
キャラが全然つかめなくて、恥ずかしくて、何度かのた打ち回りました。
穴があったら入りたいのですが、ないので掘りに行きます・・・探さないで下さい。
アニメ放送開始で何故かやたら周囲が熱いので、勢いでやってしまっただけです。
許してください。
2006.10.1 まだコルダ放送前  水月綾祢





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