「・・・お前はあんまり感じないのか?ここ」
快楽の震えというよりは人の肉体の反射的な反応を見せる景時に、少し不満になったのか埋めていた顔を持ち上げて彼を見上げた。
「ん〜感じないわけじゃないけど・・・将臣君ほどじゃあないかな」
「・・・案外、性格悪いよな、お前」
眇めた瞳で視線を上下させながら、景時の滑らかな腰骨をなぞり上げた。
その途端、景時がびくりと身体を仰け反らせる。空を仰いだ喉に、満足そうに将臣は舌を這わせた。
空は鮮やかに蒼く、木々の碧は溢れて彼ら二人に注いでいる。
景時の目の端に浮かぶのは、躊躇いがちな欲情の色。
「これでも将臣君より年上だしね。それに・・・」
『源の戦奉行だから』最後の言葉は発せられず、代わりに吐息が深く吐き出される。
景時の手は自然と将臣に伸び、縋りつくようにその逞しい肩を掴んだ。
吐息の奥に蔭を感じて、『それに』の続きは、尋ねなかった。
両手で握りこむように景時のひきしまりながらまろやかな丸みを帯びた尻を揉みしだく。
既に存在を主張しはじめた互いの下腹部を擦りつけるようにすると、景時が思わず身を退いた。
その反応がいとおしくて、身体を屈めると柔らかい腿の内側をきつく吸い上げ赤い小さな痣をつくる。
膝まできている清流が、彼の足元で跳ねた。
「まあ、いいけどな。お前が喜ぶところなんて、いっぱいあるから」
意地悪く歯を見せてそう笑うと、景時は困ったように微笑んだ。
水の音はもはや聞こえず、清廉な滝においてさえ独特の甘い淫らな匂いがする。
身体を起こして正面から向き合うと、景時の方が少し高い。気にせず抱き寄せて、思い出したかのように唇を合わせた。
おずおずと絡みついてくる甘い舌を存分に味わって、口内を舌で蹂躙する。集まっていく欲情に、たまらず唇を放した。
景時の唇は熟れて少し腫れていて、壮絶な妖艶さに、思わず将臣は息を呑んだ。
つい視線を下腹部に落として、笑ってしまう。
「将臣君・・・」
非難がましく言われても、そんな熱く潤んだ目と重量を増したものを見せられては説得力がない。
指の腹で撫であげる度に、喉から甘い声が漏れる。
景時の手を自らの熱くたかぶったものに導くと、引き戻そうとしていた手はみるみるうちに力をなくし、憑かれたように甘い滑らかな動きを繰り返す。
弾力が手に心地よいそれを、握り込んで上下に手を動かす。
すぐにぬるぬるとしたものがあふれてきて、互いの手を水とは違う透明な液体で濡らした。
「まっ・・・」
零れ落ちる蜜を絡ませ、さらに自分の指を咥えてたっぷり濡らした片手の指を、景時の後ろに忍ばせた。
途端、切なげな声で景時が鳴く。
「何?」
できる限り優しく指でほぐしながら、余裕なく将臣が返事を返す。
と、必死に身体の力を抜こうとしながら、不安げに囁いた。
「だっ、誰かに見られたらどうしよう・・・」
思わず強く指を奥まで忍ばせてしまい、景時が快感の悲鳴をあげる。
悪い、と軽く謝ってから、襞を広げ、景時の身体の奥まった部分をぐるりと掻き乱す。
「行水中か、洗濯中って言えよ」
景時の腰が淫らに動きだすのを感じながら、指の動きを激しくする。
次第に指の本数を増やし、指の腹で敏感な部分を擦り上げる。
緩い抜き差しを繰り返し音を立てて押し広げると、将臣のそそりたったものに絡ませていた景時の指は震えて崩れ落ちた。
代わりに将臣の肩に強く指が食い込む。
もう片方の手で握り込んでいるものもさらに量感を増し、とろとろと熱いものを零す。
限界を感じて、将臣は少し身体を離すと、景時の身体を回転させてすぐ傍にある岩に両手を突かせる。
「・・・どうっ・・・見ても・・・見えないよ、これっ・・・」
頬を紅く染めて俯く景時。
「そうか?命の洗濯には見えるだろ」
将臣は、脚をさらに大きく開けさせると、そのままゆっくりと身体を押し進めた。
激しく水が跳ねる。
「はあっ・・・・・・」
苦しげな声をあげて、景時が岩に肘をついた。
「いいか、動くぞ」
大きく息をついて、呼吸を合わせる。ゆっくりと奥まで芯を進めてから、将臣はゆっくり動き出した。できる限り緩やかに優しく腰を回す。
少し焦らしておいて、ぎりぎりまで引き、欲しがるように蠢く腰をしっかり押さえつける。
それから、根本まで深く突き入れた。
「ま、まさおみっ・・・くん・・・」
緩やかに焦らした後にまた深く突き上げると、景時の身体が腰を高く掲げたまま、崩れ落ちそうにがくがくと震えた。
その腰を逞しい腕で支えて、優しく引き寄せる。
景時の高い声は、幸いなことに激しい水音に飲み込まれている。
そうでなければ、誰かが凶事と勘違いして駆けつけてしまっていたかもしれない。
「も、・・・もうっ・・・」
奥まで深く穿った後、腰を回して中を掻き乱す。それから、角度を変えて、あらゆるところを侵略する。あられもない声をあげて景時の腰は淫猥な動きを繰り返し、その瞳には快楽の涙が浮かんでいた。
将臣自身も限界を感じ、激しく腰を進める。
そして。
互いに上り詰めた頃、景時は全身を震わせながら頂点に達し、同時に将臣自身も神聖な清流の中に白濁したものを吐き出した。
「・・・洗濯もの、干せなかったなあ」
岩の上にしどけなく身体を横たえたまま、手の先の放りだしたままの洗濯物を見ながら、景時は甘くない溜息をついた。
「いいじゃねえか、この陽気だ。勝手に乾いただろ」
全身に心地よい疲労を感じ、滝で身体を清める。冷たい水が心地よい。
「変な跡が残っちゃうんだよ。あーあ、また洗わないと」
うとうとと目を閉じかけた景時の頬に軽く唇を落とすと、景時はびっくりしたように目を開いた。
そして、おずおずと少し頬を紅く染めて口付けを返した。
「またしような」
淡い朱が忍び寄ってきて、日が暮れようとしていた。
あとがき
漆(うるし)。触るとかぶれます。
苺の続きというか裏話なので、ただやっているだけの話です。
2005.5.25 逢坂暁
main