足場の悪い道を登ると、櫓が見えてくる。
ここに知盛が陣を置くと決めた時、すぐに作らせたものだった。
高台に位置し、木々に紛れて海を見渡せる最適な場だったということもあるが、
何より、そこからの眺めは美しかった。
皆がその海に、源氏が現れないことを望んでいた。
ただ一人の武将を除いては。
そして、知盛の願い通り、源氏の軍が舟を出したという報せが、壇ノ浦の一門に届けられた。
わずかな猶予の中、妻子を伴っていた者は別れを惜しみ、落胆の中で支度を始めた夕暮れ。
還内府が一人見張りの役を受けていると聞き、櫓へと向かった知盛は
そこで、おそらくは戦支度をする前の身繕いの最中に逃げ出したのであろう軽装で、
手摺に縋るように泣いている将臣を見つけた。
上に上がると、知盛は臆せず声をかけた。
「泣いていらっしゃるのですか?兄上」
揶揄する声に、将臣は涙も拭わず知盛を睨みつける。
「あぁ、お前の敬愛する兄上とは、違うからな」
「・・・戦が恐ろしくなった、か?」
将臣はぐいと頬を拭って顔を背けると、答えた。
「そんなの、ずっとだぜ。人の未来を断つのが怖くないわけがない」
「兄上は、お優しいから・・・な」
「そうじゃねぇよ。優しくなんかない。自分の、兄弟とか幼なじみとか、家族のことしか、考えられないからな」
知盛は将臣の傍に座り込み、くっと笑った。
「家族、か・・・」
「自己嫌悪してんだぜ?このままじゃ、どちらも守れない」
袖で擦られた頬の赤は、そのせいだけではなく、己への怒りの証。
「別に・・・お前のせいではない。なぁ、有川?」
「策を決めたのはオレだ。お前には、他の役目を任せたかったのに、結局こうなっちまうとはな」
「適材適所。誰から見ても、俺の仕事だろう?・・・俺は楽しみで、仕方がないが、な」
知盛の視線はずっと海の向こう。大軍の中の他の誰でもなく、見つめるのは少女ただ一人。
「お前の役目は、源氏を足止めして一門を無事に逃がすことだぞ。済んだら、深追いせずにお前たちも逃げるんだからな」
「・・・兄上は、守りたいものが多すぎる」
「お前のことは守らないぞ。自分で逃げて来い。・・・必ず、来いよ。待ってるから」
知盛は海から目を離して、将臣を絡め取るような視線を送り、そして笑った。
「お言葉に従いますよ、還内府殿」
嘘をついた。
待っている、と。
嘘をついた。
あとを追う、と。
彼は来ないだろう、と知っている自分に。
生きるのも悪くはない、と思っている自分に。
彼を、愛していた自分に。
めざしているものが非常に分かりにくく、
自分でも途中で見失う始末。
ふたりのイメージが壊れている上に(性格違・・・)
ゲームの内容と辻褄が合わないような気もしますが、
暖かい目で読んでいただけるとうれしいです。
参加させていただき、ありがとうございましたvv
*サイトUPにおける追記*
初めての阿弥陀参加で緊張。
意外とすぐに内容は決まりましたが、
オフラインに終われているうちに日々は過ぎていき
気づけば〆切は目前でした。
そんなとき舞い込んできた、いきなりの訃報。
とても書く気にはなれず、辞退も考えました。
〆切は過ぎてしまいましたが、
こうして書き上げることができたのも、
励ましてくださった方々のおかげです。
本当に、ありがとうvv